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平成 6年 (ネ) 2857号 -2021年04月21日

請求の原因
一 当事者1 控訴人は、肩書地に主たる営業所を有するスイス法人であり、医薬品、化学品等を製造、販売している。
2 被控訴人大塚製薬株式会社(以下「被控訴人大塚製薬」という。)及び被控訴人持田製薬株式会社(以下「被控訴人持田製薬」という。)は、いずれも主として医薬品を製造、販売している会社である。
3 被控訴人株式会社林原生物化学研究所(以下「被控訴人林原研究所」という。)は、食品原料、医薬品原料等を製造販売している会社である。
二 本件発明に係る権利1 控訴人は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、本件特許権に係る発明を「本件発明」という。)を有する。
なお、本件発明の特許出願人は、当初エフ・ホフマン・ラ・ロッシュ・ウント・コンパニー・アクチェンゲゼルシャフトであったが、控訴人は、右法人から、右特許を受ける権利を譲り受け、平成元年一〇月三一日、特許庁長官に対し、右権利の承継を届け出た。
(一) 出願日 昭和五四年一一月二二日(昭和五四年一一月二二日に出願された特願昭五四―一五〇八〇三号の分割)(二) 出願番号 特願昭五八―二九六三二号(三) 優先権主張日 一九七八年一一月二四日(以下「本件優先権主張日」という。)(四) 公告日 昭和六三年七月二九日(五) 公告番号 特公昭六三―三八三三〇号(六) 登録日 平成四年三月三〇日(七) 登録番号 第一六五二一六三号(八) 発明の名称 インターフェロン(九) 特許請求の範囲 左記のとおり 記 ウシ細胞MDBKの場合、比活性〇・九×一〇の八乗~四・〇×一〇の八乗単位/mgタンパク質を有し、ヒト細胞系AG一七三二の場合、比活性二×一〇の六乗~四・〇×一〇の八乗単位/mgタンパク質を有し、分子量約一六〇〇〇±一〇〇〇~約二一〇〇〇±一〇〇〇であり、アミノ糖分が一分子当り一残基未満であり、
順相および(または)逆相高速液体クロマトグラフィーにおいて単一のピークを示すとともに、ドデシル硫酸ナトリウム―ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS―PAGE)で単一バンドを示す均質タンパク質であるヒト白血球インタフェロンを含有し、ドデシル硫酸ナトリウムおよび非インタフェロン活性タンパク質夾雑物を実質的に含まないことを特徴とする、ヒト白血球インタフェロン感受性疾患治療用医薬組成物。
2 本件発明の構成要件を分説すると、本件発明は、まず、以下の(一)ないし(三)の構成を具備する場合すべてを技術的範囲としている。
(一) ヒト白血球インターフェロン感受性疾患治療用医薬組成物であること。
(二) ドデシル硫酸ナトリウム及び非インターフェロン活性タンパク質夾雑物を実質的に含まないこと。
(三) ヒト白血球インターフェロンを含有すること。
そして、本件発明に含有されるヒト白血球インターフェロンはどのようなものであるかに関しては、以下の(四)ないし(九)で規定されている。
(四) ウシ細胞MDBKの場合、比活性〇・九×一〇の八乗~四・〇×一〇の八乗単位/mgタンパク質を有し、ヒト細胞系AG一七三二の場合、比活性二×一〇の六乗~四・〇×一〇の八乗単位/mgタンパク質を有すること。
(五) 分子量約一六〇〇〇±一〇〇〇~約二一〇〇〇±一〇〇〇であること。
(六) アミノ糖分が一分子当たり一残基未満であること。
(七) 順相及び(又は)逆相高速液体クロマトグラフィーにおいて単一のピークを示すこと。
(八) ドデシル硫酸ナトリウム―ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS―PAGE)で単一バンドを示すこと。
(九) 均質タンパク質であること。
3 「ヒト白血球インタフェロン感受性疾患治療用医薬組成物」との要件について 右要件は、本件特許権の対象は医薬組成物であること、その医薬組成物はヒト白血球インターフェロン感受性(すなわち、ヒト白血球インターフェロンを投与して効果のある)疾患の治療用に用いられるものであることを規定している。
4 「ドデシル硫酸ナトリウムおよび非インタフェロン活性タンパク質夾雑物を実質的に含まないこと」との要件について(一) 天然のインターフェロンは、多種多量のタンパク質夾雑物中に存在している。だから、そういう「夾雑物」は実質的にすべて除かれていなければならない。
したがって、実質的に共存することが認められるものは、インターフェロン活性のタンパク質(つまりインターフェロン)ということになる。他にインターフェロンが存在しているとき、全体としての対象物は、インターフェロンのいくつかの下位種の混合物ということになる。
(二) ドデシル硫酸ナトリウムが特に明記されているのは、従来は精製のためにドデシル硫酸ナトリウムを使うことがあり、
そうすると得られたものの中にもドデシル硫酸ナトリウムが混ざっていたというインターフェロン精製の歴史にかんがみてのことである。そこで、本件発明のものはそういうものでないことを特に明らかにしたのである。
(三) なお、製品の安定化のために加えられた血清アルブミン等は「夾雑物」ではない。


そして、一般に、特許請求の範囲が生産方法によって特定された物であっても、対象とされる物が特許を受けられるものである場合には、特許の対象は飽くまで生産方法によって特定された物であると解することが発明の保護の観点から適切であり、本件において、特定の生産方法によって生産された物に限定して解釈すべき事情もうかがわれないから、本件特許請求の範囲にいう「ヒト白血球インタフェロン」は、産生細胞たる「ヒト白血球」から得られたものに限らず、他の細胞から得られたものであっても、物として同一である限り、その技術的範囲に含むものというべきである。このように解することは、特許請求の範囲の記載要領につき、「(1) 化学物質は特定されて記載されていなければならない。化学物質を特定するにあたっては、化合物名又は化学構造式によって表示することを原則とする。
化合物名又は化学構造式で特定することができないときは、物理的又は化学的性質によって特定できる場合に限り、これら性質によって特定することができる。また、化合物名、化学構造式又は性質のみで十分特定できないときは、更に製造方法を加えることによって特定できる場合に限り、特定手段の一部として製造方法を示してもよい。
ただし、製造方法のみによる特定は認めない。」と定めている特許庁の「物質特許制度及び多項制に関する運用基準(昭和五〇年一〇月)」の趣旨とも合致するものである。
これに反する被控訴人らの主張は採用できない。


3 以上のとおり、糖鎖が現に抗体の出現に関係しているものと認められる以上、アミノ糖は疾患治癒効果について働きを示さないものと解することはできず、被控訴人ら製品は本件特許請求の範囲記載の構成との間でアミノ糖含有量の点において置換可能性を欠くから、控訴人の均等の点の主張は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。 控訴人は、現在では糖鎖に何らかの意義が認められるとしても、本件発明の前後においてインターフェロンについての糖の意義は認められていなかったから、そういう認識を前提とする本件発明においては、アミノ糖含量の持つ意義は小さいと評価するのが当然であると主張する。確かに、前記説示のとおり、本件優先権主張日当時においては、抗体の産生についての糖鎖の重要性は認識されていなかったことが認められるが、実際に抗体産生において糖鎖が重要な役割を果たしていることが本件優先権主張日後に判明したものであるとしても、置換容易性の判断については格別として、置換可能性の判断は客観的になすべきものであるから、その有する意義が小さいと解することはできない。控訴人の右主張を採用することはできない。
2 また、控訴人は、被控訴人ら製品中のα2(OIF―1)及びα8のアミノ酸配列は、【P2】が人の白血球から産生されるインターフェロンについて人の白血球の遺伝子を用いて確定したアミノ酸配列と同じである点や、甲第九一号証に基づき、ヒト白血球をセンダイウイルスにより誘発することにより産生されるインタフェロン中のα2、α8は、BALL―1細胞をセンダイウイルスにより誘発することにより産生されるインタフェロン中のα2、α8とは、アミノ酸配列において全く同一の物質であると理解される点を主張する。しかしながら、白血球等が産生するインターフェロンには多種多様なものが含まれる可能性があり、控訴人が化学構造式やアミノ酸配列によってではなく、本件特許請求の範囲に記載された比活性等によりその特許請求の範囲に含まれる化学物質を特定する方法を採用した以上、控訴人の主張する、被控訴人ら製品中のα2(OIF―1)やα8のアミノ酸配列が【P2】が確定したアミノ酸配列と同じである等の点は、前記認定の他の事実と併せ考えても、被控訴人ら製品中のα2(OIF―1)やα8が本件発明の技術範囲に属する可能性があることを示すにとどまるものといわざるを得ず、これらの点から、被控訴人ら製品中のα2(OIF―1)やα8が本件発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。 八 結論 以上によれば、控訴人の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であるから本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法95条本文、89条を適用して、主文のとおり判決する。

特許の要件~進歩性 -2020年09月06日

特許法第29条第2項は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下この部において「当業者」という。) が先行技術に基づいて容易に発明をすることができたときは、その発明(進歩性を有していない発明)について、特許を受けることができないことを規定している。
当業者が容易に発明をすることができたものについて特許権を付与することは、技術進歩に役立たず、かえってその妨げになるからである。

進歩性の判断の対象となる発明は、請求項に係る発明である。
審査官は、請求項に係る発明の進歩性の判断を、先行技術に基づいて、当業者が請求項に係る発明を容易に想到できたことの論理の構築(論理付け)ができるか否かを検討することにより行う。
当業者が請求項に係る発明を容易に想到できたか否かの判断には、進歩性が否定される方向に働く諸事実及び進歩性が肯定される方向に働く諸事実を総合的に評価することが必要である。そこで、審査官は、これらの諸事実を法的に評価することにより、論理付けを試みる。

論理付けを試みる際には、審査官は、請求項に係る発明の属する技術分野における出願時の技術水準を的確に把握する。そして、請求項に係る発明についての知識を有しないが、この技術水準にあるもの全てを自らの知識としている当業者であれば、本願の出願時にどのようにするかを常に考慮して、審査官は論理付けを試みる。

審査官は、特許請求の範囲に二以上の請求項がある場合は、請求項ごとに、進歩性の有無を判断する。

(1) 審査官は、請求項に係る発明と主引用発明との間の相違点に関し、進歩性が否定される方向に働く要素(3.1参照)に係る諸事情に基づき、他の引用発明(以下この章において「副引用発明」という。)を適用したり、技術常識を考慮したりして、論理付けができるか否かを判断する。

(2) 上記(1)に基づき、論理付けができないと判断した場合は、審査官は、請求項に係る発明が進歩性を有していると判断する。

(3) 上記(1)に基づき、論理付けができると判断した場合は、審査官は、進歩性が肯定される方向に働く要素に係る諸事情も含めて総合的に評価した上で論理付けができるか否かを判断する。

(4) 上記(3)に基づき、論理付けができないと判断した場合は、審査官は、請求項に係る発明が進歩性を有していると判断する。
上記(3)に基づき、論理付けができたと判断した場合は、審査官は、請求項に係る発明が進歩性を有していないと判断する。